数年前から最も訪れてみたかった場所、それが滋賀県高島市新旭町にある針江という集落。
美しい景色と生命の輝きに満ちた集落:針江は、2004年1月にNHKハイビジョンスペシャルで放映された映像詩「里山・命めぐる水辺」の舞台になっていた。数年前から「湧水」に興味があり、この約20年前の映像を見たことがきっかけで針江に興味を持った。
ネットやSNSでよく針江のことを調べていたが、今回ようやくその地を訪れることができた。せっかくなのでその時の記憶をここに残し、記録していく。
針江の「かばた」とは?
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この地域には日本でも珍しい水の文化があります 比良山系に降った雪、雨が伏流水となり各家庭から非常に綺麗な水がコンコンと湧き出ます。(針江では湧き出す水のことを生水(しょうず)と呼んでいます。)人々はこの自噴する清らかな水を飲料や炊事と言った日常生活に利用しています。
針江 生水の郷 公式ウェブサイト より引用
このシステムをこちらでは川端(かばた)と呼んでいます。
このような究極なエコの生活、美しい景色、地域の人とのふれあいなどを求めて日本全国、海外よりたくさんの人が見学に見えるようになりました。
平たく説明すると、各家庭が綺麗な湧水を家にひいており、その湧水を飲料や炊事といった日常生活に利用する。特に、あふれ出た水を溜めておく端池では、野菜を冷やしたり食器を洗ったりしている。そこには鯉が放たれており、野菜のカスや食器についた残飯を食べてくれる。
という、まさに究極のエコ生活が日常的に行われているのが針江の魅力だ。
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針江 生水の郷委員会
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こんな針江の良さを紹介する針江 生水の郷委員会が存在する。この委員会では、びわ湖周辺の豊かな自然や水辺の暮らし、または地域の人々に触れながら、現代の暮らしを見つめ直すきっかけを感じていただけるようにと、かばた見学ツアーを行っている。
頂いた針江のパンフレットには下記内容が記されている。
この地域の家庭へ無断で入ることはできません!
※必ずボランティアガイドさんの案内のもとで見学をしていただくことになっております。
かばたは、ほとんどが家庭の敷地内に自家湧水があります。日常の暮らしの一部でもありますので、ご理解を頂きお越しの時には必ずご連絡ください。ご協力をお願いします。
高島市の観光サイトでも針江は「観光地」として紹介されているが、ここにあるようにかばたは集落での日常生活の一部である。そのため上記内容は十分理解しなければいけない。(実際に行ってみてわかったが、周りに観光案内所や観光客のための駐車場などは全くない。)郷に入っては郷に従え。
ということで公式サイトから見学の予約を行う。
車で訪れる際は、案内時間の15分前までに「針江公民館」に着いておくように説明を受ける。
当日、針江公民館へ到着する。少し離れた場所にある駐車場の場所を教わり、そこに車を停めて公民館へ戻ってくるように説明を受ける。駐車場は公民館から歩いて3~4分程度のところに位置する。
これまで何度もネットで見てきた景色
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駐車場へ車を停め、公民館へ向かっているとこれまで何度もネットで見てきた景色が広がっている。早速写真を撮ってしまう。
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公民館で見学ツアーの申込書を記載し見学料を払うと小さな紙コップを頂ける。ツアーの際に、湧水を汲んで飲めるように、とのこと。
この日は平日の午前中にもかかわらず、参加者は5人組の女性、1人の男性、親子2人、そして僕の合計9人。正直他に参加者がいるとは思っておらず、午後のツアーも参加者はたくさんいるみたいだ。
かばた見学ツアー
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針江のボランティアの方から説明を受けながら、針江をゆっくり歩いて回る。9月中旬だったが、まだまだ炎天下の中ツアーをしていただいた。この案内をする方は全員で10人前後いらっしゃるらしい。
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この針江大川は70%が湧水である。ニゴイが多く泳いでいるが、四季折々の魚が生息し、今の時期はアユがみられる。
かばたの周りには大量のクレソン
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山地の浅い清流で育つクレソンがたくさん生えている。
基本的にすべて自噴水なので、管を打ち込むだけで、水が上に湧いてくるという仕組みである。ちなみに、その水はだいたい100年の歳月をかけて地下から湧き出ている。
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見えづらいが写真中央からやや右側にアユが泳いでいる。水温は年間を通して12~13℃と低いので、このサイズで一人前なのだ。
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川の両サイドには各家庭からの水を流す水路がたくさんある。
夏はここで子供たちが水遊びをするのだが、水位は浅く、敷居もあるので安全に遊ぶことができる。
残飯処理のために鯉を放つ
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残飯処理をしてもらうために鯉は飼い放ったが、野生の鯉も泳ぎに来る。鯉は50~60年生き、大きいもので体重20㎏の鯉も存在する。
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これはヨシノボリ。きれいな水の場所にしか生息しない魚。
耐久性を増すための焼杉外壁
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焼杉外壁の家が続いている。杉板の表面を焼くことで湿気が出にくく耐久性が増す。
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昔は家があったが、家は取り壊されかばただけが残っている。
とある自宅の「外かばた」1
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これが針江の日常生活の一部。
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針江の方は、天ぷらなどで使った油を月に一回集めて石鹸にし使用する。環境にやさしい。
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生活用水は全部湧水であり、水をポンプで組み上げる電気代だけかかる。湧水で炊いたご飯は、炊きたてでも時間が経っても美味しい。
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ここで試飲タイム。舌触りがとても柔らかい水だ。
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野菜や食器などの水切りとして竹ザルを使用する。もちろんこれも手作り。
動物にも優しい造りの川
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川の淵にはくぼみがあるのだが、それは魚や鳥の休憩場所のために作られている。
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梅花藻は年中見られる。一般的に見頃は7~8月。
この日も川はとても綺麗なのだが、この針江大川は、年に4回(3.5.7.11月)住民による大掃除が行われる。現在、針江にはだいたい150軒住宅があるらしい。
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これは水力発電なのだが、ここはアユがたくさん昇り、時にはアユが飛び上がるのが見えるみたい。
あちこちで見られる鯉
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ニゴイは普通の鯉よりも顔がスマートで新幹線ぽい。でも美味しくはない。
食用の鯉を買ってきた際は、ここに放ち泳がせて泥はけをし、そして食べるみたい。
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タニシみたいなカワニナがたくさんいる。カワニナはホタルの餌。
とある自宅の「外かばた」2
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2軒目のかばたの鯉はデカい。
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鯉もこんな環境で泳げて気持ちいいだろう。
おさかな旭
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琵琶湖で取れた魚の佃煮を販売しているお店(おさかな旭)。
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左から、もろこ、ごり、わかさぎ、いさぎ、えび。
すべて試食ができ、1パック500円で購入できる。完全に好みだがもろこ、えびがとても美味しかった。
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おさかな旭の目の前には「水道水」と「地下水」を比較できるようになっている。 ここで飲み比べれば一目瞭然。そもそも水道水は温度がぬるい。そして消毒をしているので塩素感?鉄感?が顕著。
農作物を守るための寒冷紗
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「こんこんと湧き出る」ってこういうことだね、とツアーの参加者が言っていたのが印象的だった。ちなみに右側の黒い布みたいなものは寒冷紗で、湧水がたくさん流れる地域に行くとよく見かけるものだ。
年中水温が一定の湧水はわさびが育つのに適切な環境なのだが、わさびは直射日光が苦手なのでこういうものを使って対策している。
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これは長野県安曇野市の大王わさび農場に行った際の写真。農場一面に広がる寒冷紗。
曹洞宗 正傳寺
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ここは曹洞宗 正傳寺。
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これまで見てきたのは小屋づくりの「外かばた」なのだが、こちらは家屋の中にある「内かばた」である。
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針江は水が綺麗で水温が低いので、蚊が少ないらしい。
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ガイドさんは、「火の用心や魔除け」として針江で汲んだ水を台所に供えているが、1年経っても水は腐っておらず透明のままだと言う。自分も経験があるが、たいてい汲んだ水を数ヶ月放置しておくと、水が腐り藻ができたかのようにペットボトルの中が緑色になってしまう。
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この外壁の線の本数で寺の位が分かれており、5本線が最も格式が高い。
上原豆腐店
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町の豆腐屋を直接見たのは人生で初めてかもしれない。
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かばたで冷やされる豆腐。
針江公民館前の水車
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この水車も水力発電で、
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公園内の灯りの電源となっている。
針江大川で夏を感じる
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約1時間半のツアー終了後は、針江大川に入ることに。最初はかなりの冷たさに悶絶しながら足をつけるが、時間が経つと慣れてきて夏の終わり頃に夏をたっぷり味わうことができた。
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誰かにとっての当たり前の「日常」は、誰かにとっては「非日常」。育ってきた環境が皆それぞれ違うので当然のこと。そこで「非日常」にたくさん触れることで、自分の中の「日常」の幅を増やし生活を豊かにしていく。あるいは、他の人の生活も豊かにしていく。
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